内モンゴルへ行ってきた話⑥

f:id:c11quadrak:20170306212952j:plain

遂にやって参りました「内モンゴル」シリーズ最終稿!
・・・と謳っていましたが、とてもじゃないけれど書ききれないので何回かに分けてご紹介します!

 

( ;∀;)〈すまないね!もうちょっとだけ続くよ!
 
 
題目は内モンゴルの丘の上でよく見かけるコレについて!
(固いけど、ソースは民俗学の論文からの抜粋に限ってますので卒論にも使える・・・・・かも?)
 
 

f:id:c11quadrak:20170306212609j:plain

 
この建造物、名前を「オボ」といいます。
 
 
では早速、概要から・・・
 
 
オボーとは
 
「堆石の頂部に柳枝や木杆(神杆)を刺したヒーモリ(天馬を描いた布片や紙片)を飾ったりしたもの」である。
(吉田純一の「近現代内モンゴル東武地域の変容とオボー」:「アジア地域文化学の構築−21世紀COEプログラム研究集成−」早稲田大学アジア地域文化エンハンシング研究センター編、雄山閣、2006、pp.255-282)
 
 
これをうけ白莉莉は論文「牧畜村落におけるオボー祭祀の復活及び祭祀儀礼の再考-内モンゴル・モガイト村のイケ・ツァイダム・オボーを中心に-」(「年報非文字資料研究 第8号」神奈川大学日本常民文化研究所 非文字資料研究センター編、精興舎、2012、pp.295-311)にて、
「昔からモンゴル各地で石や灌木の枝、芝生、土、レンガまたは雪を高く積み上げて作られてきた物」とオボの構成材料について補足している。
 
 
・・・と。
簡単にまとめれば「石やレンガを積み上げて作った建造物」であり、「宗教的な意味のある旗や布・紙で飾りつけされている」ことで、「祭壇として機能しているもの」がオボということですね。
 
 
古来よりモンゴル遊牧民族に崇拝の対象とされてきたアニミズム(自然崇拝。日本だと富士山の山岳信仰八百万の神なんかも似た類ですね。)に由来する昔ながらの宗教的建造物で、内モンゴルの宗教観を学ぶのにこれほど適したものはないと思います。
 
 
では、今回はオボのトレードマーク!「ヒーモリ」(上にぶっ刺さっている木と布でできた旗です)について掘り下げていきたいと思います。
 
 
 
    f:id:c11quadrak:20170306212705j:plain
 
ヒーモリとは (黒字で引用文・青字で解説をしていきます!)
(引用:ボルジギン・オルトナスト『千葉大学 ユーラシア言語文化論集』8 、モンゴルにおける祈りの旗に関する基礎的考察-オボー祭りにおけるヒーモリを事例に‐,2005,pp.87− 118参照)
 
 
モンゴルでは、祈りの旗のことをヒーモリ(keyimori)と表現する。
「ヒー」は「風」、「モリ」は「馬」の意味で、チベットのルンタの意味と全く同義である。
 
(モンゴルのヒーモリの色、図柄、掲揚目的などはチベットのルンタと酷似しているが、製法、素材、類型、掲揚場所などには多少異なるところが見られる。)
 
 
 

    f:id:c11quadrak:20170306212952j:plain

 
また、「古代男子の生業の快調、家庭の繁栄と幸福を象徴した」ものを「ヒー」とし、馬の意味合いの「モリ」と二つの語が結合されたできた複合語であり、その言葉の象徴的意味を更に具体化させ、如意宝珠を負って疾走する馬の絵で表現した。
 
 
モンゴル人はそのような絵をヒーモリと称し、信仰儀礼の際、広く使用するようになった。
 
このことは、「ヒーモリ」は馬と深く関わりを持つことを表象しており、それがある意味で遊牧民にとって馬の特別視が強調された表現であることを窺わせているという説もある。
 
 
現在のオボは、飾りつけに書かれた文句や絵・祭祀もラマ僧が行ったりと、6世紀後半に流入してきたチベット仏教の影響を色濃く見受けられます。
 
 
上の説明文で、チョイチョイ仏教が絡めて書かれているのはその為です。
ヒーモリ自体、書かれている文字などもチベット仏教に強く依存しているものが多いです。
 
 
然しながらオボーまたはそれに類するものは匈奴の昔(仏教が伝来する前)からあり、もとはシャーマンが祭祀を司るシャーマニズム(薩満教)に由来するものであるとされています。(先に挙げたアニミズム的な宗教観ですね。)
 
 
 

        f:id:c11quadrak:20170306213048j:plain

 
現にその名残としてホルチンやバルガなどの地にはシャーマンが残るオボが存在しラマ僧を近づけさせないものもあるほどです。
儀礼においても仏教が忌み嫌う流血供犠を行うオボも存在します。
 
今回は下の説を軸に、話を先に進めますね。
 
 
モンゴル語におけるヒーモリという言葉には、祈りの旗を指す以外に様々な象徴的意味が含まれている。
 
そこにモンゴル人の精神的及びイデオロギー的意識の基層を形成し表現する記号の役割を果たす表現でもあることが指摘される。
 
時にそのような観念が儀礼を伴って具現化され、人々の思考の底部に新たなエネルギーの源として漲り、新鮮な響きと鼓動をもたらすことも指摘される。
 
 
文脈によって、ヒーモリという言葉には、「精神spirit ,soul 」「気運atenden 賜atrend 」「繁栄するflourish,prosper 」「繁盛 prosperity ,flourish」「壮建 be healthy be well 」「威勢spirit ,power 」「荘厳solemnity,sublimity」「福運fortune,luck」などの意味が含蓄されると共に能動的な力や創造的な力が託されており既に働いている。
 
 
国は違えど、今も昔も言葉に宿る力に対して信仰心を持つのは変わらないようですね。
日本人的な価値観で訳せば「言霊」というやつですかね。
 
ヒーモリは、その音の由来が持つ意味・象徴を絵に描いて旗にし、その旗の名に更に力を求めています。
力の重ね掛け・・・RPGなら間違いなく最強の類なアイテム設定(笑)
 
 
モンゴルのヒーモリは主にオボー祭りの際、登拝者によってオボーの生木から結ばれ奉納される。
また地域によって色の組み合わせや掲揚方式などにも相違が見られる。
 
 
ここでわかるのは、ヒーモリはかなり原始的なアニミズムに沿って作られているということ。
 
生木を使用するのは、それに宿る生命力にあやかる意味合いがあります。
上記でシャーマニズムの説を選択したのはこの為です。
 
 
オボを構成している1パーツに過ぎないヒーモリですが、内包する歴史や意味合いはこんなにも多くありました。
 
 
因みにヒーモリや飾りの存在しないオボに関しては、その殆どが目印としての役割であり信仰の対象になっていないという資料もあり、信仰の上でヒーモリがいかに重要か感じられます。
 
 
次回は祭礼について掘り下げます!お楽しみに!